「グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ」から学ぶ

「グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ」
デイヴィッド・ミーアマン・スコット (著), ブライアン・ハリガン (著), 糸井重里 (監修), 渡辺由佳里 (翻訳)
この本は、今年、というよりもここ数年の中で、最も優れた、これまでにない視点の「マーケティング本」だと思います。
「グレイトフル・デッド」という、60年代のヒッピーカルチャーを起点としたこのバンドがファンのために行っていた、フリーやシェアの考えに基づくマーケティング施策に通ずる数々の試み。
それをマーケティングの視点から学んでみると、ネットカルチャーが生まれるはるか前でありながら、これらが思いのほかリンクしている。
そしてそれらがこじつけでもなく、読みながら深く納得し、ワクワクしながら数多くのヒントを彼らから得ることが出来る、というつまりとても本質的な試みが紹介された本です。
そう、この本の、従来のマーケティング本にない、最も優れた点は「血が通っている」という点です。
糸井重里氏によるまえがきから少々引用すれば
それは、ある種のマーケティングが「大衆操作的」なものだと考えられているからです。
「これをこうして、あれをああすれば、みんながこうなるだろう?」という考え方が、大衆操作的でないとは思えません。
「これが、こうなったのかあ。もっと、こうなったら、おもしろいぞ、みんなもよろこぶぞ」
というふうなひとりずつが楽しさに巻き込まれていくような、創造的なマーケティングがここにあります。
この点に集約されるのではないかと思います。
従来型のマーケティング本に欠けている、読むにつれ純粋にワクワクしてくる、読み手の想像が勝手に膨らんでくるような、操作論や仕組み論でない、血の通ったコミュニケーションのためのケーススタディー。
簡単にいくつかその例を挙げてみます。
試み1) 全くユニークなビジネスモデルをつくる
ミュージシャンにとっての主な収入源はレコードアルバムの販売です。
だからアルバムを売るため、アーティストはツアーをします。
そのため、セットリストは新たなアルバムからの内容を中心にし、多くの場合、そのセットリストはツアー中、ほぼ変わらないのが通常の在り方でしょう。
が、グレイトフル・デッドは「ライブで稼ぐ」ことに、全力を注ぐビジネスモデルを創りました。
セットリストを毎回変え、アドリブを多用し、その場だけでしか体験できないライブ体験をファンのために行い、そして恒久的にライブを続ける事で、一回一回のライブ体験を稀少性あるものへとしていったのです。
さらに照明と音響システムに大金を費やすことでも、よりパワフルな音楽体験を創りあげていく、というミュージシャンたちが採るビジネスモデルとは真逆なアプローチを採ったのです。
試み2) 印象的で忘れられない名前をつける
「グレイトフル・デッド」(感謝する死者)
親が思わず顔をしかめる、クールでない同級生や職場の同僚が嘲笑するようなこの名前。
でもそこには、圧倒的な印象の強さと、内輪にしか通じないジョークのようなところがあります。
この名前を受け入れ、愛するから者同志だからこそ生まれる、強い仲間意識。
バンド名、名前が持つ影響力について、多くをおしえてくれます。
これもマーケティング上では重要な要素です。
試み3) 中間業者を廃し、消費者に直接販売する
電子チケットシステムを使う販売会社へ委託するバンドが増えるなか、
彼らは、最も良い席を熱烈なファンに提供できるよう、仲介を廃し、自前で独自のチケット販売事務所を立ち上げ、販売をしていきました。
そして、いちはやくツアー情報をファンに知らせる会報誌を配布することで、一番良い席は、常に彼らの熱烈なファンの手に渡る仕組みを作ったのです。
この「ファンへの徹底的な特別扱い」。
そして、「そのために仲介を排し、直接コンタクトしていく」こと。
これは、ファンの忠誠心を育てるために行われるマーケティングの基本原則が、そのまま体現されたものであるとすら言えると思います。
試み4) コンテンツを無料で提供する
通常、ライブ演奏の録音は劣化した海賊版を生み、ミュージシャン側によって禁止されうるものとして扱われています。
が、彼らは自分たちのライブ音楽を無料で開放しました。
自由に取っていいよー。商用に使わなければ友達同士で交換したっていいよー、と。
が、それによりファンが自由に録音し、自作の手の混んだイラスト入りのテープを作り、友達に貸す機会が許容され、結果的に彼らの音楽に人々が触れる機会を増やし、新たなファンの獲得と、ライブチケットの売り上げ増加へとつながったのです。
これはまさに去年からのバズワードである「フリーミアム」をはるか先におこなっていたものとして捉えることが出来るでしょう。
試み5) フリーからプレミアムへアップグレードしてもらう
彼らは、ファンへはライブの録音とその共有をフリーなものとして提供していますが、それとは別に、過去の評判のよいライブの高音質録音版を、バンドの公式サイトで販売しています。つまりプレミアム版の提供です。
観客席で録音した音楽には、どうしても雑音が入ってしまいます。
が、バンドからのリマスター版にはそれがない。
だから熱狂的なファンは、厳選されたリマスター版をバンドから別に直接購入する。
これこそフリーミアムの考え方が、ファンにとっても、ミュージシャンにとっても幸せな形で結びつく在り方と思います。
と、簡単にいくつか試みの例を挙げてみましたが、これらはほんの一例です。
他にも様々な彼らの活動が、マーケティングの視点になぞらえて紹介されています。
そして、なによりそれらを通じて感じる素敵な点は、「自分たちが本当に好きなことをやりながら、ファンを大事にすることをやり通す、その幸福感」です。
それが、マーケティングがテーマでありながらも、血が通ったものになりえている理由ではないかと思います。
読みやすく、久しく見られない類いの良書。
本当にオススメの本です。
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