すげかえる問題設定の発想 (「ハンバーガーを待つ3分間の値段」斉藤由多加)

月曜日, 9月 5th, 2011. Filed under: Book Design feature Interactive



「ハンバーガーを待つ3分間の値段」斉藤由多加著


ゲーム「シーマン」や「THE TOWER」を開発したゲームクリエイター、斎藤由多加氏の(広義な意味での)インターフェースに関する様々な発想が記された、この著書。
今更ながらではありますが最近読んで、とかくその内容が凄かったので少々紹介を。


この中で、その発想の凄みが際立つ「シーマン」という育成ゲーム開発に関するエピソードについて。


「シーマン」とは、人の顔をした超シュールな魚、シーマンを、毎日会話をしながら育成していく、音声認識を利用したシミュレーションゲームです。

このゲームは、相手が言うであろう言葉を事前想定し、登録しておく事で、音声を認識したら対応した回答をシーマンが答える仕組みとなっています。

そして、もし相手の音声が聞き取りにくく、言葉として認識できないときには、
「えっ?今なんて言った?」
「よく分からないぞ、もう一回言ってみて」
などと、認識できるまで聞き直すように作られております。


このような仕組みは、システムとしては至極全うな発想なはずなのですが、
開発時のプロトタイプでユーザの反応をテストした際、ある深刻な問題が発見されました。

つまり、
「人がリアルに語りかける言葉は、あまりにも予測できない為、ほとんどが認識できない言葉となってしまった」
というものです。

結果、シーマンは、
「えっ?今なんて言った?」
を繰り返す回答ばかりで、ユーザ側にとってストレスを与えるばかりとなってしまった、
という問題が発生してしまうのです。

この
「想定する言葉を登録しすぎる事には、限界がありすぎる」という制約。
そして
「家庭用ゲーム機では、対話用AIプログラムや音声認識技術を高度化させるにも、限界がある」という制約。

これらは開発中止へも直結するほどインパクトの強い、致命的な課題だと思われます。


このような課題が露呈した場合、果たしてどのような対応を行うべきなのか?

ここで採られた逆転の発想、ユーザへの行動変容への発想が、とかく凄いです。

つまり、

「音声が認識できない理由を、ゲーム側でなく、ユーザ側の問題へとすげかえてしまう」

という発想です。


具体的には、認識できない言葉ばかりが続いた場合には、シーマンに怒らせるという強気な判断を採るのです。
「おまえの言葉、何回聞いてもわかんねえよ!つまんないから帰るわ。バイバイ!」と
不愉快そうに言い放ち、水槽の奥の方に去らせてしまうんですね。

が、それによって、ユーザの反応はそれまでとは大きく変わる事になります。
「・・・ごめんね、シーマン」
「おーい、お話をしようよ」
と、まるで赤子をあやすかのように、わかりやすい言葉をゆっくりと話すようになったのです。

そして、わかりやすい言葉になって認識されれば、
「わかりゃいいんだよ、俺だって好きでおまえに飼われているんじゃないんだからな、しっかり話してくれよ・・・」
としぶしぶシーマンは戻ってきてくれる、という立場が逆転したゲームへと転換されたのです。


ここでの最大のポイントは、

「どうしたら、音声認識の精度が上げられるか?」という “技術的な制約視点への問題設定” ではなく、
「どうしたら、ユーザ側にこちらの意図する言葉どおりにしゃべってもらえるか?」という “ユーザ側の行動視点への問題設定” へとシフトさせた点でしょう。


その結果して、ゲーム側を賢くさせるのではなく、人間側に学習をさせるよう行動をしむける仕組みに着目する。
ここでは「気難しくて、口の悪いペット」というキャラクター設定を強める事で、ユーザ側の行動を誘導する解決法が導かれているのだと思います。


この、特に技術的制約がある場合における、「ずらす」問題設定の発想。
人の心理や行動を、「仕組み」を作ることで誘導し、変容させる発想。


より広義なデザイン、より広義なインターフェースへと、視界を大きく広げる事になる、お手本が凝縮された逸話だと思います。


もう約5年ほど前の本ではありますが、本当おすすめです。
もし読まれていない方には是非に!と思います。

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